オレは認めない。
こんなヤツが自分の父親だなんて




ポートセルミの行商人



石灰石が多く取れ白塗りの建物が多くたちならぶその街並みは、よく青い海に浮かぶ白い宝石と称されている
交易が盛んで世界中の船が集まる街。
ポートセルミ


真っ白な低い塀に腰をおろしたラスは男2人のやり取りを見ていた。
丁度今、アイツが行商人につかまっているところだ

この商人と言うのがしつこい。
何度いらないと断っても諦めない。

「まあ、そう言わず商品を見てってください。見るだけでいいんで」
といいながら、商品というかガラクタを並べていく
黒い帽子が地面に転がり落ちて、それをアイツが拾ってあげると
「これが気になりますか?旦那様お目が高い!これはかの有名な王女が好んでかぶっていた帽子です。」
早速説明がはいる

うそつけ。こんなトンガリ帽子を好んでかぶる王女がどこにいる。

「いまなら1割引の…」
子供の自分から見てもうさんくさく、明らかに法外な額だということがわかる。

サンチョは、こういう輩はすぐに追い返していた。
というより相手にしていなかったし、むこうもあまり近寄ってはこなかった。

「子供がお腹をすかせて待っているんです・・・」

どうやら商人は泣き落としにかかったようだ。


それを強く追い払うことも出来ずオロオロしながら慰めているコイツはなんて情けないんだろう。

自分の父親という男の姿を嘆くラスだが
もし、その場にヘンリーなどいたら笑いながらこういうだろう。
「お前にも同じ血が流れている」と。

結局この軟弱野郎は商品の中で一番安い値段の物を買った。
プレゼントを包むときに使うようなちゃっちな緑のリボン。でも短すぎるため包装にすら使えそうに無い。
こんなの、1G払うのも勿体無い。
今回特別にもう一本オマケしてくれるという。
絶対いらねー…


とりあえず買わせることが出来た行商人は満足して去って行った。

アイツは「まいったな」とかいいながら頭を掻いてこちらに戻ってきた。

ここで、重大の事に気がついた。先ほどまでさっさと追い払えよと思っていたが、商人がいなくなってしまうと、コイツと二人きりになってしまうのだ。
仲間の皆は街の外で待機している
ティルはお手洗いに行ったまま、まだ帰ってこない。
先ほどちょっと見た女子トイレはすごい行列になっていたから仕方ないが。
後どれくらいかかるだろうか。

「オレ、トイレ行ってくる」
そういって、ラスは二人きりの空間から逃げ出した。

リュカは、ついさっき行ったばかりのトイレにまた向かったラスの背中を見送り、再び頭を掻いた。

言葉や態度の節々に「お前なんて認めない」というのがビシバシ伝わってくる。
先ほどの商人とのやりとりしている間もラスからの冷たい視線を感じて、焦った。
どんどん父親の威厳が減っていっているのがわかり、商人よさっさといなくなってくれと心の中で願っていた。

父親とはなんと疲れるものだとため息をついていたら
ティルが、戻って来た。
僕しかいないのを不思議に思ったのか辺りを見回す。
「ラスなら、またトイレに行ったよ」
そういうと、小さくうなずいて僕の隣に立った。
ティルは口数が少ない。
引込思案なのかと思いきやしゃべってみると、とてもしっかりした意見を物怖じすることなくしゃべる。
ただ、しゃべったあと後悔するようにまた黙りこくる。
不思議だ。
あまり表情にも出さないため
僕の事どう思っているのかどういう子なのか全然掴めない。
ただ、ラスのような冷たい視線は感じないし
それなりに慕ってくれているようにも思えるのだが

「あ、そうだ。」
リュカは懐にしまったばかりのものを取り出した
「これ、あげる」
そう言って先ほど買ったリボンをあげる
ポッと頬が綻んだ気がした。
「つけてきてもいい?」
鈴の音のようなかわいい声が発せられた。
うんとうなずくと、鏡になりそうなところを探して駆けて行った。
右、いや、やっぱり左に行った方が鏡に近いかもと行ったり来たりしている
早くつけてみたいと焦る姿を見ながらほほ笑む。
彼女の耳まで赤くなっている
たったこれだけの事なのに、こんなに喜んでもらえるなんて。

女の子はかわいいなぁ

父親は、娘を可愛がるというが、わかる気がする!



2回目のトイレを済ませたラスはティルがいるのを確認してから戻った。

が。

またティルと入れ替わりとなってしまった。
ティルの走る姿を目で追う。後ろ姿から嬉しそうな音が伝わってきた。
手には先ほどのちゃちなリボンが握られていた。

……まさか
「お前、さっきのリボンあげたのか!?」

俺の問いに「え?うん。」とマヌケ面でうなずく。

「おまえっ!まじめにやれよ!!」

俺の怒りにこいつは「なんで?」といった顔で首をかしげていた。
「すごく、喜んでたよ?」
ああ、そうだろうよ!ティルはお前があげるものなら何だって喜ぶ。


左右の髪をちょこっと結んだティルが戻ってきた
あたり一面に心が弾む音が響き渡っている。

だめだ、すごく喜んでる…。

このリボンだけじゃあんまりだと思って、後でちゃんとしたリボンを何本か買ってあげたが、
そのちゃちなリボンが一番のお気に入りのようだ。

アイツは「かわいいかわいい」なんてデレデレ笑いながら頭をなでていた。

お前、わかってんのか。
ティルが髪の毛を飾るなんて何年ぶりだと思ってるんだ。

ほら、かわいいよね?と俺の方に感想をふってきた。
ふざけんな。ティルはかわいいんだ。そのリボンのおかげでかわいいんじゃない!

「うん。かわいい…。」

ティルの「ありがとう」という言葉に「どういたしまして♪」とか言ってアイツは微笑んでいた



オレはコイツが嫌いだ

だいっ嫌いだ

2014.2

石化から解放されてすぐの話。

無神経リュカ炸裂。

数年後ティルが大人になり
「これ、初めてお父さんが私のために買ってくれたものなの」
と、宝箱から出してくるんです。

ビアンカ、ラス、他一同冷たい視線をリュカに送る
リュカ冷や汗たらたら

ビアンカから説教をくらいます。




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