ラスとヘンリーと
-8-

 

 痛い言葉だった。
アイツは完全にキレてた。
オレもその言葉にキレた。
今こそ切り札を使う瞬間だと思った。
「ああ、そうだな悪かった。」
オレは非を認めて力を抜いた。
「パパスさんは本当素晴らしかったよ。」
オレの謝罪に馬乗りになったリュカがちょっと拍子抜けしたような顔をした。
「それに比べお前はどうだ」
オレはリュカを思いっきりきつく睨みつけた。
リュカも睨み返してくる。
「なんだと?」
夢にまで見たリュカの鼻をへし折る瞬間だ。思いっきり顔が歪んだ。
「お前、落盤があった日のこと、誰も見てないと思ってるだろ?」
「残念だったな!オレは見てたぜ!」
リュカの目がまん丸に開かれた。
「あの世でお前の親父さん泣いてるだろうな」
効果は絶大だった。
一瞬にしてアイツの顔が唇まで真っ青になった。
俺をつかむ力も目に宿る光も消えた。
戦意喪失したリュカをオレの上から蹴り退けて、殴りあいは終わった
 


◆


オレはそのとき罪悪感とか、後悔とか全く感じなくて、
胸の中は達成感でいっぱいだった。
逆にもっと何かダメージが大きい言い方は無かったか考えたくらいだ。
ついに掴んだ勝利に酔いしれた。

次の日、アイツはオレに謝ってきた。
頭を地面にこすり付けて、何度も何度も謝ってきた。
足元にあるリュカの首筋をみて、オレは違和感を感じた。
・・・変だ。ちっとも嬉しくない。
嬉しくないどころか、ひどく心が冷えていく。

オレは、望み通りコイツを屈服させることが出来たんだ。
これで完全勝利となったんだ。絶対嬉しいはずなのに。
さっきまであった優越感は一体どこにいったんだ?
喜ぼうとすればするほど、虚しさが心に広がっていく。
口が渇いて指先がびりびりしてる。
何かが大きく間違ってる気がした。
オレが見たかったのはこんなものじゃない。
じゃあ一体何を見たかったんだ?

オレに服従するところか?
泣き叫ぶところか?
絶望するところか?
堕ちるところか?

胸が落ち着かなくなる。
これ以上は考えては駄目だと胸の奥でサイレンが鳴り響いてる。
構わず考えを続けてみる。

何でそんなものが見たいんだ?

ふっと自分の中にある穢いものに触れた気がした。
オレは咄嗟に蓋をしめて目をそらした。

一方アイツは、強い光が宿ってた瞳が本当死人のようになって
やることなすこと無茶苦茶になっていった。
もちろん人助けは止めなかった。
・・・やめなかったが
もはや人助けというより、それで死んでも良い、殺してくれといわんばかりの無謀な行動だった。

自暴自棄て言ったらいいのかな。
完全に生きる意欲を失っていた。
原因であるオレが言うなよって感じだけど。

それでもアイツは使命のように助け続けた。
いや、使命というより、まるで許しを請うようだった。
当たり前のように限界が来て、あいつは倒れた。

その日、いつもより多めの人だかりができていて覗いてみると
真ん中にリュカが倒れていて、2人の鞭男が「立て!」と鞭を打っていた。

しばらくオレはいつものように多くの見物人に混ざって傍観する。
だけどピクリとも動かないアイツを見て
一気に血の気が引いた。
無意識のうちに体が飛び出す。
リュカに駆け寄って背中に手を伸ばす。
リュカを触れる手に熱が伝わって来る、呼吸の度に上下する。
「生きてる・・・」
リュカが生きていることを確認した瞬間、頭が冷静になった。
目の前には、鞭をしならせる鞭男。
後悔が胸を走った。

しかし幸いにも2,3回鞭で叩かれただけで済んだ。
男も丁度引っ込みがつかなくなっていたのだろう。
「さっさと連れて行け、邪魔だ」と残して去っていった。
オレは鞭男の後姿を見送ってからその場に仰向けになって息を吐いた。

リュカはそのまま高熱を出して、二、三日意識不明の状態が続いた

 

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