アヒルの子

−前編−

「で、あるからして・・・」
廊下が騒がしくなって、教師は授業を中断し、
何事か確認するために廊下に出て丁度通りかかった兵に声をかけた。
「モンスターの群れが城付近に現れました」
「こちらに?」
「分かりませんが、今から討伐に向かいます!」
「大丈夫なのですか」
「数は少数なので、おそらく小部隊で間に合うと思います」
そういって、兵はその場を後にした。
部屋に戻ると、静かに書物を読む皇女が一人・・・
「ラス様はどうしたのですか」
さっきまでティル様の隣に座っていたはずなのに
机の上には、真っ白なノートと鉛筆がのこっているのに王子の姿が見当たらない。
「逃げました」
読書の体制を変えないまま、答えが返ってきた。
一瞬理解が出来なかった。なぜなら、ただ1つのドアは自分がいたからだ。
出口はここしかないはずと、思いかけて
ハッと窓に目を向けるとカーテンがユラユラと外側へとゆれていた。



城の周辺で戦闘がはじまった。
報告以上にモンスターの数は多くて、一小部隊だけでは梃子摺っていた。
倒しても倒しても限が無い。
増援を呼ぶべきか、否か迷っていた。
「ラス様こないかな」
兵一人がぼやいた。
増援を呼ぶほどでもなく、でも愚痴はもらしたくなるくらいは大変であった。
「何いってるんだ」
ピピンの不謹慎な発言を部隊長が注意した。
注意されて、頭を下げるピピンを横目に、他の兵も「確かに」と心で肯いていた。
くるくると全身を駆使して器用に動く王子を思い出して、確かに来て欲しいと皆思った。
「一緒に戦ってくれるだけで心強い」
戦力としてもだが、
なんてったって伝説の勇者だ。天空の剣が空気を裂き光を弾く度に気持ちが昂ぶる。
今の状況では、増援と言うよりそういったり士気の高揚が欲しかった。
「たるんどる!」
部隊長も皆の気持ちが分かってしまい。
それでは駄目だと一括した。
同時に草陰からリンゴ型のモンスターが飛び出して牙をむいた。
右後ろの腰のあたりに飛びつかれ咄嗟に反応ができない。
部隊長は痛みに備えて構えた。しかし牙が届く前にモンスターは真っ二つにされていた。
「ら、ラス様!」
目の前には、白銀に輝く大きな剣とそれをふりまわす小さな子供がいた。
自分の身長以上ある剣をヒョイと担ぎニッと皮肉っぽく笑う。

「今はお勉強の時間ですよ!」

感謝とか、歓迎とかしてもらえると思っていたラスは、思いがけない言葉に口を尖らせた。
「うっさいな」
せっかく口うるさいところから、逃げ出して来たのに、ここでまで注意されるとは思わなかった。
「だから何だよ!」
ラスは、剣を抜き払いモンスターの群れへ飛び込んでいった。
その後をあわてて小部隊が追いかける。
しょうがない王子だと飽きれながらもその表情は皆嬉しそうだった。

王子が来る前と打って変わって兵の皆は生き生きと動いていた。
一体、また一体と、順調に倒されていく。

モンスター全体としてみると、そんなにレベルの高いモンスターはいない
だが空から襲ってくる攻撃が厄介であった。
地面の敵を相手にしていると、どうしても上への注意が薄くなる。
敵の攻撃を避けようとした瞬間を狙われたら大ダメージを被る。
相手が油断して低空飛行したところを狙うことで倒していたが
一羽だけ降りてこないものがいた。一際大きなホークブリザードだ

他のホークブリザードと違い頭の白い鶏冠っぽい毛が一房朱色にそまっていた。
とても頭がキレて、こちらの間合いをきっちり把握している。
おかげで大方の敵は片付け終わってもそいつだけ、全く手出しが出来ないまま残った。
空から凍える息が吐き出され、逃げ惑うしかない。

ラスは木の幹を上り、枝から枝へ飛び移った。再び剣を抜き放ち木を蹴る。
ホークブリザードの上へ踊りかかった。
突然の不意打ちに、相手は怯んだ。
剣が羽の付け根に食い込んだが、切り落とすには浅い。
そのまま自由落下。
下にいた兵士達が慌てて受け止める。
数人が飛びついたものだから受け止めた拍子に全員がひっくり返った。
青い怪鳥を振り返る。
血を流しながら、命かながら逃げて行くホークブリザードの姿が見えた。
ティルの様にイオの一発でも打てたら止めをさせるのに。チッと舌打ちして剣を納めた。
とたん、わあっと勝利の歓声が上がった。

ピピンは感動した。
「やはりラス様はすごい」
王子のそばに駆け寄ろうとすると、
すでに王子は皆にかこまれていて叩かれたり抱き上げられたり頭を撫でられたりして、もみくちゃにされていた。
「一匹逃がした。」
皆が喜んでいる中、不服そうな顔をする王子がまた頼もしかった。
「その歳でそれだけの腕があったら大した者ですよ。」
皆よくやったとか、すばらしいとか褒めちぎっていた。
ラス様は「当然だろ」といいながらも、頬っぺたが染まっていて照れているのがわかった。
これが、愛らしい。
「さすが伝説の勇者様ですね!!」
歓声のなか、誰かがそんなことを言った。
ピピンは「勇者」という言葉にちょっと王子の表情がかわるのを知っていた。
そして、さっきまでと違う顔でまた笑う。
その差にあんまり気づいてる人はいないようだ。
どこが違うのかと問われれば難しいが、
強いて言うならそこにはかわいらしい頬の赤みはないことぐらいか。

「ラス様!!」
大きなお腹を揺らしながら世話役のサンチョが現れた。
「何やってるんですか。お勉強の時間でしょう」
げ、ヤバイと逃げようとするラスを部隊長がヒョイと掴みあげた。
そして、にっこりとサンチョへと献上された。
「ひっでー!!薄情者!!折角手伝ってやったのに!」
サンチョは、ぎゃあぎゃあと暴れるラスの襟首をつかんで城へと回収していった。
姿が城に消えて行った後も、おぼえてろよ〜!という声が聞こえてきた。
皆で可哀相にと苦笑しあった。

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本当は一ぺ−ジに収めるつもりだったのですが、どうにもこうにも長くなりました。
これでも半分は削ったのですが(苦笑)
どうして私の文てだらだら長くなってしまうんだろう。

 

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