ラスとヘンリーと
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「どちらかというと奴隷になって更に嫌いになった。」

「俺のせいでパパスさんが死んだ。だから俺はアイツに償いをしないととおもっていた。」
だけど実際オレはそれどころじゃなかった。

「城からどん底の生活だぜ?」

城では毎日飯はおいしいものをおなかいっぱい食べ、ふかふかなベットで眠り、それこそスプーン以上の重たいものは持ったこと無いというほど贅沢な生活を送っていたんだぞ。
それがいきなり飢え死にしない程度の泥の混じった食物、ごつごつした岩の上で横になり、毎日鞭で叩かれながらの岩運びだ。
耐性も体力もない俺はそりゃ何度も死かけたさ。
おかげで
償うどころか助けられてばかりで
「アイツが優しく接してくる度辛かった。」

高熱で動けない自分に、優しく水を運んでくれるにこやかな顔
水を飲むたび自分を庇ってついた腕の傷が目の前をちらついて
水だって汲んで来るのに大変な思いをしたはずで…
甘えては駄目だという想いと拒めない自分

いっそのこと見捨てて欲しいとすら思った。

リュカはあんな地獄の中でもオレだけじゃない、他人をも助けていた。
大人ですら自分で精一杯だというのにだぜ?
じゃあ俺はアイツ以上の事をしなきゃならない。
自分のことでも手を余らしてた俺は、重荷だった。

何もできない後ろめたさで、顔を合わせるのが苦痛になり、
「ついに俺はアイツを避けるようになった。」


「アイツを避けていたのは、オレだけじゃない」

皆がさけていたという話を聞き
「なんで?皆助けてもらってるんだろ?」
えらく納得がいかなくて、俺は口をはさんだ。
語り部は腕を組んで、ため息をはいた

「極限まで追い詰められた人間って醜いんだよ。自分のことしか考えてなくて、自分でも醜いって思ってて、でも周りも皆醜いから、気にしない。仕方ないことだって納得する」
「そんな中に聖者がいたら、どうだ。」

体に帯状の熱が刻み込まれる。
痛みがが収まらないうちにまた違う角度で熱が襲う。
もう力尽きたと思われる体が、痛みとともに跳ね上がり、力を消費していく。
いつ終わるかもわからない永遠とも思われる時間。
鞭で叩かれる度何度も死の恐怖を感じた。
どうにかこの状況から開放されたくて救いを求めて顔をあげる。
すると、まずまわりにいる人の多さに、驚かされる
周りがあまりに静かで誰も気が付いていないんだと思うから。

でも皆見てるのに誰も助けてくれやしない。
普段仲良く話してる奴らも
とばっちりを食らうのはゴメンといった感じで見てみぬふりをする。
他が薄情なわけではない
助けを求めた自分が愚かなんだ。
ここではそれがルールなんだから。

そのかわり他の者が叩かれていても助ける必要はない。
助けなくても助けてもらえなくても悔いない恨まないそれがルール。

それでも、知ってる奴に目をそらされるってのはものすごい孤独を感じるものさ。
やるせない想いをかみ締めながら、絶望が心を占めていく
そんな時、自分を背に庇ってもらえたら、
目の前にあいつの背が現れたら、
その瞬間、振るえあがるほどの喜びが胸に湧き上がるんだ。

「だったら・・・」
「じゃあ、次に」
だったらどうして避けるんだと言おうとしたら、人差し指をピッと目の前に立てられて遮られた。

アイツが鞭で叩かれてる場面に遭遇する。

皆が皆、アイツみたな強さをもっていればいいんだが。
ほとんどの奴はもっていない。
叩かれるとわかってて、誰が好んで入る?
皮膚が裂けて膿がたまり腫れ上がるんだ。
体中が熱を帯びて疲れ果ててるのにろくに眠れやしない。
苦しみから解放されることのないまま朝を向かえ寝不足でボロボロの体で、また過酷な労働がはじまる。
前は助かったが次は死んでしまうかもしれない。
叩かれるのは嫌だ。
それに自分が出て行って何になる。
見てみぬ振りだ。
だって皆そうしてる。
オレは自分で精一杯なんだ。
ほら、足もフラフラで、もう限界なんだ

自分にそう言い聞かせて目を反らす。
言い訳ならいっぱいでてくる、でも所詮言い訳だ。

本当は皆知ってる
無視される孤独も、庇われた瞬間の喜びも
だから目をそらした瞬間、あの喜びの分だけ自分は堕ちていくのを感じる。
罪悪感だけが残る。

「次どんな面して、アイツと会えってんだ」

中にはアイツを利用してやろうと近づく奴もいたが
結局最後は罪の意識に耐えられなくなって・・・

「アイツは一人になった」

 

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