ラスとヘンリーと
-7-

 

アイツの親父は臭かったとか
えらそうにはやしてる髭が不潔に見えたとか。
筋肉馬鹿で脂ぎってたとか。
オレはパパスさんをそんな風に馬鹿にした。

「他人を助けに来て死にやがったんだぜ!」
「親子そろって馬鹿なんだ。勘弁だろ」
「つきあうこっちの身にもなれってんだ」
ぎゃははははと馬鹿まるだしで笑った。

運悪く通りかかったリュカに聞かれて、
激怒したアイツが殴りかかってきた。
「あの時初めてアイツと殴り合いをした。」
オレも、アイツも、お互い言いたいことが堪ってたんだろ。
罵れば殴られ殴り返し罵られれば殴り殴り返され
お互い手加減なしだ。力の限り殴り合って、ぼろぼろさ。
鞭男も手出し出来なかった。
オレは何を言ったかな、偽善者だとか、迷惑だとか、親切の押し売りだとか、ずっと腹にあったもの全てを吐き出した。
アイツも腹にあったもの吐き出した。

あの時はお互いが言い過ぎた。
絶対言ってはならないことを、選んだように吐き出した。
あの時言った言葉、言われた言葉は今もずっと心に刺さってる。
きっと、もう癒えることはない。


殴り合いが始まって。
初めてオレの拳がアイツの頬にストレートにはいる
それと同時にアイツの拳がオレの顎を捉えた。
お互い吹っ飛ばされて、地面に転がった。
「お前が、、」
口の中に、血の味が広がった。
リュカが、何か言っている。早く起き上がらなければ。
頭の中がグルグル回ってがなかなか立ち上がれない。頭を振っていると
「お前を助けに行って、お父さんは死んだんだぞ!」
そう叫びながら、立ち上がろうとする俺に飛びついてきた。
襟首を掴み取られてまた床に逆戻りだ、後頭をぶつけた。
治まりかけた頭のグルグルが再発した。
「勝手に来ただけだろ!」
腹が立って、襟首を掴み返した。
リュカの拳が振り上げられるのが見えた。
オレはその前に奴のわき腹を打った。
ゲホッとアイツはむせる。その間にアイツの上に乗り上げた。
「お前が攫われたから、だから!!」
オレが上になる反動をつかって、肘鉄を食らわしてきた。
いってぇ
「だから頼んだ覚えは無いつってんだよ!」
痛みに乗せて拳を数発アイツの顔に叩き込んだ。
「バッカじゃねーの。笑い話にしかならないっての」
途中で拳を受け止められたと思ったら世界が回った。
空をバックにアイツは憎々そうな顔をして、オレを見ていた。

「謝れ!父さんに謝れ!」
悲鳴のような声をあげて襟首を掴んで何度も地面に叩きつけられた。
肺に衝撃がつたわって息がつまる。
「そういうのを親切の押し売りっていうんだよ!」
思い切って頭突きを食らわしてやった。
頭に星が飛んだが、あっちも同じらしくてオレは満足だった。
フラフラしたが、アイツもフラフラしていて復活しないうちに腹に蹴りを入れた。
アイツは避けきれずに蹲った。
「お前・・な・んか、助・・なけれ・・ば良・・った!」
ゲホゲホと息も絶え絶えになりながら言う。
ベッ、とオレも口の中の血を吐き出した。
「ああ、そうすれば良かったんだよ!」
そうすればもっと気楽な奴隷になれたかも知れないのに
余計な重荷をもたされて
「オレだって迷惑だね!」
鬼の形相をしたあいつが、襲い掛かってきた。
腹けられて動けないはずのアイツは信じられない速さで右のストレートをうった。
とっさに左手を間に挟んだが威力は殺せず、自分の手ごと顔にめり込んだ。
「くっ」
驚いてる間もなく左からの拳がはなたれた。
今度はもろに食らった。
このまま吹っ飛びたかったが肩を捕まれて為せなかった。
そのまま膝けりが入る。俺はなすすべもなく宙を舞った。
なんで、コイツこんなに体力あんだよ。
「・・・な・・で」
リュカが近づいてくるのが分かって、焦ったが体が言うことをきかなかった。
やべ。マジでもう無理。
首を掴まれてまた、リュカの下敷きにされた。
リュカは悲痛な顔をしながら、オレの胸にドンとたたいた。
「なんで!」
奴の悲しい被害者ぶった顔がいまいましかった。
反撃したいのに力が入らない。力を振り絞って唾を吐きかける。
リュカの目の色が変わった。ゴッとまた拳が飛んだ。
ボカボカと殴りながら、リュカが叫んだ
「お父さんが死んで、なんでこんな奴が生きてるんだ!」

 

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