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勇者のグラム数
(ピピン編)

-1-

 

王子と王女と出会ったのは、兵に志願して間もなくのことだ。
その日はたしかお二人の5歳の誕生日で城では祝賀パーティが開かれていた。

自分は新人の下っ端ということで、人手のたりない給仕役をやらされていて、人使いの荒い厨房のおばちゃんに酒瓶をわたされ、あまりの重さにヒーヒー言いながら運んでいると、会場の入り口までたどりついたところで、廊下の端で小さな男の子がうずくまっているのに気が付いた。
その子供は金髪で青いマントを羽織り、そこから金糸と銀糸が編み込んである襟元がのぞいてその高価そうな衣装を見てこの方が今日の主役の一人ラス王子なのだとわかった。
失礼だとは思ったが、王子にしては冴えないというのがピピンの第一印象だった。華やな服が、着てるというより着られているように見えた。

それにしても、一体どうしたと言うのだろう。
パーティはもう始まっていて、皆主役の登場を待っているはずなのだが。
自分みたいな下っ端が声をかけていいものか迷ったが、
王子の浮かない表情を見て、もしかしたら体調が悪いのかもしれないと、思い切って声をかけてみた。
「どうなされました?」
「…」
ピピンが声をかけると王子は、俯けていた顔を更に俯けて、完全に顔を膝にうずめてしまった。
その様子に本気で心配になって、ピピンは身をかがめて王子の調子をうかがった。
「あの。お腹でも痛いのですか?」
「…」
やはり返事はなかった。
うずくまったまま動かない。どうしようかと困惑して誰かいないか周りをみわたす。
「ああ、気にしないでっ」
どこからともなく沸いて出た声にピピンは肩を跳ね上げ、再びキョロキョロとあたりを見渡す。ぴょこんっと王子の影から青い物体が飛び出してきた。
「体調悪いわけじゃないから!まったくもっていつもどおり」
王子の肩でピョコピョコはねるそれはスライムだった。
普通なら即座に退治する対象なのだが、この城ではもっと恐ろしいモンスターが、平気に練り歩いている。リュカ王がこの城に帰還するまでに「仲間」にしたモンスター達だった。はじめは咬み付かれはしないかとビクビクしたものだが、慣れてしまえば、彼らも、笑うし泣くし悔やむ。冗談もいうし反省もする。感謝もする。人と何らかわらない存在だった。
「ただ一人で中に入る勇気がなくて、まごついてるだけだよ」
「は…ぁ…?」
「そんなんじゃないってば!!」
ばっと顔が上げられ、幼い高い声が発せられた。
「じゃあ、一人ではいってみなよ」
そういわれた王子はムスッとしてまた膝の中に顔を隠した。
「ほらぁ〜やっぱり」
ケラケラと笑うスライムをペシリと肩からはたき落とした。
王子にはたき落とされたスライムはポヨンポヨンと3、4回地面を転がり、「あ、来たみたいだよ」と言って廊下の向こう側を向いてとまった。
そちらの方を向くとタタタタっと間隔の小さな足音が聞こえてきた。

角から小さな女の子が飛び出してきた。
裾の広がったスカートを踏まないように両手で持ち上げて、小走りでこちらに向かってくる。
王子と同じ金髪を後で結い上げ、大きな花飾りからのびる長い髪が走るたびにフワフワとゆれる。
この国の王女ティル様だった。
「おまたせっ」
ラス様の前で両足をそろえてタンととまる。反動で前になびいたスカートをパンッと両手で弾く。
きらきらとした青い瞳が上げられて、ニコッと微笑んだ
それは身にまとうきらびやかなドレスすらくすんで見えるほど、華やかな笑顔だった。

…あ。かわいい

ティル様は、こちらの視線にも気づき自分に向かってもご苦労様ですと微笑んでくれた。
とたん南国のフルーツのような香りがあたり一面にひろがった。
それはとても幸せを感じさせる香りでピピンはすぐ虜になった。
一体なんの香水だろうとクンクンと鼻を澄ませてみたが不思議なことに鼻から感じられるものはなかった。

「おそいよー!」
そう口を尖らせる王子は先ほどとは別人のように一気に顔に光が射して、生き生きと輝きだした。
「ごめんねっ。なかなか髪型がきまらなくって」
「髪型なんて何だって同じだよ」
先ほどまで全然動かなかった口がべらべらと動き出した。
「もう。ラスったらわかってないわね。髪は女の命なのよ」
腰に手を当てて、プンプンと怒ってみせる。まだ5歳だというのに、もう立派なレディなのだと主張する王女が微笑ましかった。
「かわいい。かわいい」
スライムがぴょんぴょんと跳ねながら楽しそうに王女を褒める。
「でしょでしょっ」
王女は嬉しそうに左手でスカートの端を持ち上げ、右手は肩にのっている髪の毛をかきあげて、そのままクルリと一周して見せた。
「スラりんはわかってるなぁー」
王子はスラりんにムッとした視線を投げた。その視線を受けてスライムはニヤニヤしている。
「そんなことより、早く入ろうよ。待ちくたびれちゃったよ」
ぐいっと強引に王女とスライムの間に王子が割ってはいった。
スライムの顔がニヤニヤしている理由がわかり、自分の顔も思わずニヤニヤしてしまう。
「別々に入ってもいいって言われたじゃない」
それに対し王女の声はつれない。
「ダメだよ。二人で入らなきゃ」
「そうそう。ダメだよ。ラスは一人では入れないんだから」
スライムがそう付け足した。
王女とスライムは、ププッと笑い、王子が「違う!」と叫んだ。
今日は二人の誕生日だし、ティル一人だとかわいそうだし、出席者にわるいし、といろいろ言い訳を並べ始める。そんなラス様にティル様が一言。
「じゃあ一人で入ってみせて」
スライムと同じことを言われて、ラス様は頬を膨らませた。ここまで言われたら黙ってはいられない。
のしのしと会場入り口へと歩いて行った王子は、二枚扉に手をかけた。
「お」
「お」
スライムと王女がからかうような声をだした。

王子は扉を押し開こうと扉に両手をつき右足を前に出して踏ん張る体勢になり、そしてそのまま動かなくなった。
額に汗浮き上がり手が震えている。

…本当に苦手なんだ

強くかみ締められた唇が青くなり、扉を睨みつける目の端に涙がたまりはじめた。
そこまで緊張しなくてもいいだろうに。
その苦手っぷりは見ていて可哀想になってくる。
ピピンは苦笑してしまった。

数回の逡巡を見せた後、意を決したように王子の足が踏みしめられた。
扉の向こうの光が細く見えた。そのままゆっくりと元に戻され、ヨロリと圧倒されたように数歩下がる。

王子は扉の前で立ち尽くした。
ばつが悪そうに、俯き加減でチラリと王女を振り返る。
その落胆した表情に、今回はちょっと無理だったけど「よくがんばった」などと頭をなでてあげたい衝動にかられそうになる。

助けを求める王子の顔にティル様はクスリと困ったように笑った。
「しょうがないわね。」
やれやれとため息をついた王女は王子の隣に行ってその手を握った。
「一人じゃなんにも出来ないんだから」
王子は文句を言いた気に口を尖らしてそっぽをむけたが、王女から逸らされた顔は赤みが挿して嬉しそうな笑顔に変わっていた。

「じゃ、行くわよ?」
右の扉に手をおいたティル様がラス様に準備はいい?と確認を取る。
「うん!」
力強く頷いたラス様は左の扉に手をかける。もうその手は震えてはいなかった。
二人は仲良く手をつないでその扉を押し開いた。


皆がいっせいに今日の主役の二人に注目した。
大勢の拍手の中、王女が来賓の方々に5歳とは思えない見事な謝辞を述べ、スカートの裾を持ち上げながら優雅にお辞儀をする。ラス様がそれに倣う。

給仕の仕事にもどった自分は、会場の人たちにお酒を提供しながら二人の様子を伺う。
先ほどまで、全く統一感の無かった会場のざわめきが双子を中心に展開されていた。
それはもちろん今日の主役なのもあるだろうが、それ以上に王女の力だった。
王女が来た事で会場の雰囲気が一気に華いだのが感じられた。
王女のかわいらしい笑い声が会場中に心地よく響き渡る。その楽しそうな様子に、皆もつられて笑い出し、周りの人は興味津々に耳をかたむける。あっという間に大勢の人に囲まれていた。
会話の中で王女はコロコロと良く笑い、驚き、怒り、悲しむ。上手い具合に話をふって聞き手も話し手も気持ちのいい気分にさせる。
これは口で言うほどそんな簡単に出来る事ではない。相手の言いたい事を正確に察知し、相手の望んだ反応を返し、退屈をさせないように話の流れを操作しなければならないのだ。もちろん大人の会話と違い子供用であるため多少は難易度は低いのかもしれないが、王女の聡明さが現れていた。

大勢の注目を浴びるティル様の隣で、ラス様はその日一言も言葉を発さなかったのではないかと思うほど、影が薄かった。
カチンコチンになりながらティル様の手を必死に握り締めている。

あれは比べられるのはツライだろうな。

しかし王子は予想に反して、皆に褒められて嬉しそうに笑うティル様を見つめながら、優しく微笑んでいて、本当にティル様が大好きなのだと伝えていた。

日記連載第3弾です。
リクエストがありましたので
いつか書かなきゃと思っていた王不在のグランバニアの話と重ねてみました
完全オリジナル話
緊迫感も何もない話になりそうなので、楽しくないかもしれませんが
私の中のDQ5世界の重要な基礎成分なので目を通して頂けたらうれしいですw

「ピピン編」とあるように他に「ラス編」「ティル編」を考えてはいます。
いや、実際書けないかもしれませんが。

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