星降る大海
-2-
あれからギクシャクとした時間が続いた。 ラスはこれ見よがしにリュカを無視してたし、リュカもリュカでラスに対し及び腰になっている。 さすがにこれでは駄目だ どうしたものかとスラリンたちは頭を抱えた 「ティル様・・・」 ピエールが口をひらいた 「ティル様に相談されてみては?」 ラスの事と言えば、ティルに聞くのが一番。 そう薦められリュカはティルの部屋の前に立った。 ノックをするとトテテテという足音の後ドアが開き小さな頭がひょこっと顔をだした。 ラスか、モンスターの皆と思っていたのか視線の先が低い。「あ!」と聞こえそうな顔が僕を見上げてきた 「ちょっと話いいかな?」と声をかけたら、小さく頷き中に通された。 ティルの伸長くらいある椅子をよいしょよいしょという仕草で運んできて勧められる。 でも、僕がこれに座ったらティルの座る所が無くなると躊躇していると、自分用に収納兼椅子のようなものをテーブルの向かいに持ってきたのを見て、僕は腰を下ろした。 ティルはそのまま椅子には座らずテーブルに乗っていた書物を退かして、かわりにティーセットを持ってきた。 足りない身長分椅子に上り膝立ちになったティルは、新しい茶葉に換えられたティーポットにお湯を注ぐ。 そのまま蓋を閉めると、すぐにピョンと飛び降りまた棚の方に行ってしまった。 あたりに紅茶のいい匂いが漂う。 なんというか、女の子だ。 クッキーやクラッカー、ドライフルーツ等、これでもかというくらい棚からいろいろ取りだしてきて、お皿に乗せられていく。 そして、やっと椅子に戻って来てくれた。頃合いの良くなった紅茶がティーカップに注がれる。 これで、話が出来ると構えると、今度はミルクを切らしているのに気がついたらしく、食堂に取りに行こうとする。 さすがにそれは引きとめた。 「これで充分だよ、そんなに長居しないし」 駆け出そうと椅子から降りたティルに声をかけると「そう」と息の抜けるような微かな音が返ってきた。 それとともに頬いっぱいに広がっていたの色も落ち着く。 向かいの椅子にやっと腰をかけてくれた。 そして僕の目を見る 話をする体制に入ってくれたのがわかった。 何から話したら良いかわからずとりあえずお茶を一口すする。 茶葉種類とかサッパリわからないが、いい香りだ。 意を決して切り出した。 「なんだか、ボクはラスにすごーく嫌われたみたいなんだよね。」 どうにか好いてもらおうと、ラスのためにすればするほど ラスは僕に対して拒否反応を起こしている。 拒否反応を繰り返すことで、どんどん心が離れて行っているのがわかる。 ラスのために少しでも力になってあげたいと思っているのに、このままでは逆効果だ。 率直なところ 「どうしたらいいか判らない。」 青い目はじっとこちらを見たまま動かない。 何かしら反応が返ってくれば会話しやすいのだが、それはあまり期待できそうにない。 黙ったままのティルに、この後どう言葉を続けようか頭を悩ませる。 静かに見つめてくる青い瞳の中に自分の姿が映っている。 ソイツはずいぶん情けない顔をしながら自分を見つめ返していて、内心落ち着かなくなった。 「・・・お父さんは、ラスの事嫌い?」 小さな唇が動き、自分は我に返った ティルの顔にも声にも特に軽蔑の色はない。 責めてるのも追い込んでるのも自分自身だった。 ただの確認のための言葉。 ティルの感情の籠らない淡々とした声が今は不思議と心地いい。 優しく慰められたら情けなさに拍車がかかったかもしれない。 「いや、別にキライってわけじゃないんだ。ただ、なんと言うか・・・」モゴモゴしていると 「苦手・・・?」 ズバリと言われて、あわてて否定する。 「・・・得意じゃない?」 そう言われて、リュカは完全にまいってしまった どうやら全部お見通しのようだ 壁を作っているのはラスだけじゃない。 僕の方にも壁がある。 そこには目を背けて、ラスの壁を非難するのはどうなんだ。 「反省します」 リュカは肩を窄めた。 「お父さんは、ラスのことが心配なんだよね」 ティルの声が柔らかくなった。 「心配だよ。まだ、あんなに小さいのに勇者だなんて」 命をかけさせられて苦しい想いをさせられて、でも世界はそれを当然というのだ。 そんなのあんまりだ リュカの拳に力が入る。 どうにか力になってやりたい。助けてやりたい 「・・・ラスは強いわ」 ラスは強い。8歳とは思えない力、魔力、天才的な戦闘技術。そしてその成長速度 「うん。知ってる。でも・・・」 −−−きっと魔王はもっと強い だがこれは声に出してはいけない言葉だった。 リュカが口ごもったのをみて、ティルがその先を引き継いだ 「・・・でも、心配なんだよね。」 「気になるんだよね。」 ―――わかるわ。 そう呟くティルの視線は僕から離れて窓の光の方を向いていた。 その横顔は、とても大人びていて それは記憶の中の凛と立つ彼女の姿を思い出させた。 思わずその名前が口に出てしまい 振り返ったティルの視線に慌てた自分は なんとか笑ってごまかした
◆
「うわー勘弁してほしいなあ」 グロンテプスは海竜の一種で、大きいものだとこの船くらいはある。 海上での戦いは厄介だ。 まずは聖水を撒いて近寄れない状態にし、魔法攻撃で威嚇しつつ数を減らそう 「イオナズン」 両手の平から直視できないほどの眩しい光の球が打ち出された。 僕は一人感嘆の声をあげていた 「私明日の朝グランバニアに帰ります」 え?なんで? ラスだった。 この勢いで間違いなく罵声が飛んでくると思った。 ラスの口が開き、 ラスの鋭い目が何かを訴えている。 何を訴えたいのか全然わからない。 今回は想像はつく。ティルが帰ってしまうのが嫌なのだろう 親の立場として本当は二人ともグランバニアに居させるべきだ。 「それが、答えかっ!!それが、お前のっっ!」 「……お前が帰ればいいのに」 それだけ言い残してラスは去って行った |
背景: NEO
HIMEISM