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ラスとヘンリーと
-10-

 

 そこまで、一気にしゃべり終わって、元奴隷の男は息を吐いた。

「あのあと、リュカは何とか一命をとりとめて今を生きている。」

あの時はもう助からないと思った。
医者もいない薬もない、ましてや清潔でもないあの場所で
もし、生き残れるとしたら。それは生きようとする強い意思が絶対に必要で
でも、それは既にオレがつぶしてしまっていた。
オレは絶望した。
後悔と罪の意識で気が狂いそうだった。
もし、あのときリュカが死んでいたらと思うとゾッとする。
でも
「奇跡は起こった」


ずっと、不思議だった。
死の淵から這い上がってくるほどの力は何処からきたのか。
パパスさんの遺言?
ビアンカちゃんとの約束?

それとも

勇者を生む運命だったから?


じっと目の前にいる男の子をみた。
いきなり黙りこくってしまったオレを不振に思ってか、小さな勇者は首を傾げていた。
「ありがとう」
ボソッと無意識に言葉がこぼれた。
「何?」
「いや」と小さく笑いながら目を横に逸らす。

きっとこの言葉は重たい。
その上に無責任だ。
勇者だから特別というのは、あんまりだと思う。

ビアンカちゃんと結婚する運命だったから
グランバニアに王が帰還する運命だったから
ルーラという呪文を復活させる運命だったから
魔物に襲われた子供を助ける運命だったから
いや、もしかしたら落ちたスプーンをテーブルに戻す運命だったからなのかもしれない。

そもそも運命なんて考えた自分に笑えた。

何でもいいんだ。
オレに、やり直すチャンスを与えてくれた。
そのことに感謝をしたい。

 

何故か目の前にいる語り部は
オレをじっと見た後、目を逸らして笑いやがった。
なんだ?オレは今何かしたか?
不愉快な顔をしたが
あっちはまた遠い目をして話が始まった。

「その後も、巧いことめでたしめでたしともいかなくてな。」

「・・・いかなかったのか?」
親父は死ななかった、コイツも改心した。
全てがうまく納まりもう話は終りだと思っていた。
他に何か問題があったのか?

「オレもそう思ったんだけどな」
今まで話したことは、全てオレだけの話にすぎなくて。あいつの中では、オレと喧嘩したあの日から何一つ変わってない。
これからが大変だった。

アイツは相変わらず無謀なことを続けて、オレはそれをいつもかばいに入っていた。
かばう俺をいつもアイツは不思議そうに見る。
「無茶をするな!!」
と何度か注意したことはあるけど、力なく微笑むだけで何も言わない。

「オレは自分の言った言葉の重さを想い知った。」

あの時あんなに浮かれて吐いた言葉。あれだけでは足りずもっと酷い言葉を捜していた。
優越感に浸ってた自分。
その全てが今自分を苦しめている。
「皮肉な話さ。」
自分は自分があの時吐いた言葉を打ち消す方法をみつけることが出来なかった。



…いまだに見つけることが出来ない。

もどかしい日々が続き、ついにリュカは処刑されることになった。
奴隷監督もいいかげん目障りになったみたいだ。

広場の真ん中で手を縛られ、首をさらすリュカ。
下をむいていて表情は見えなかった。
多くの奴隷が見ている中でいつもの鞭ではなく首切り包丁が振り上げられる。

おれはいつもの様に飛び出した。

「死ぬな」と思った。
それは本当に冷静に悲しみとか悔いとか伴うことなくストンと胸に収まった。
刃が振り下ろされる場所から、リュカを突き飛ばして、自分が刃を受けた。
幸い背中をかすめただけで致命傷にはならなかったが
リュカが悲鳴を上げるのが聞こえた。
その声をきいたら、なんだかおかしくなった。
もう怖いものなどない。
「オイオイ、処刑執行人さんよぉ」
自然と口元があがる。
「コイツを殺りたきゃ、まずオレを倒してからにしてくんない?」
執行人はしばらくオレを眺めた後、首切り包丁を握りなおした。
遠慮なく切り捨てることに決めたらしい。
再び首切り包丁を振り上げた。
止めさせようともがくリュカを押さえつけて、オレは天を仰いだ。

 

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