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トロッコの洞窟

-2-

 

「お父さんを待ってなくていいんですか?」
父親とはぐれてしまったのに構わずズンズン進む幼い勇者に、プサンは声をかけた。
気にせず進む少年の後をキラーパンサーが心配そうに追っている。
「お父さん心配なされてますよ」
「うっさいなぁ。お父さんお父さんって。どうでもいいだろ?!」
鬱陶しそうな返事にプサンはフムと、顎に手を当てた。
「ラス君は、お父さんのことがお嫌いなんですか?」
「…ああ」
「優しいお父さんじゃないですか」
お約束な返事が返ってきて、ラスは意地悪く笑った。
「だから何だよ。」
「親子の仲が悪いことは悲しい事ですよ。
空で見ていらっしゃるマスタードラゴン様もお嘆きになりますし。」

それは、この世界では決まり文句だ。
人々はマスタードラゴン様の祝福、加護を祈り善行をする。悪行をすれば怒りに触れ罰が当たる。
小さい頃から何度も聞いた言葉だ。

実際は天空城は湖の底に落ちていて天から見ているかどうかも怪しいものだが。

プサンの言葉をラスは鼻でわらう。
「言っとくけど、俺はマスタードラゴンも嫌いだからな。」

「えっ」
背を向けているラスは気づかなかったが、
その時プサンはストレートにショックを受けた顔をした。
プサンはおっほんと咳払いを一つして表情を改めた。

「それは…また…、天空人としては聞き捨てならないですね」
「どうしてです?会ったことはない…ですよね?」

「うん。あったことねーよ」

では、何故?という質問にラスは立ち止まった。

「……」



…オレを勇者にしたから



俯きながら発せられたその声は小さくてプサンに届いただろうか。

「マスタードラゴンって、偉いんだろ?」
顔を上げ、さっきとは打って変わった大きな声でぶっきらぼうにラスはしゃべりはじめた。
「すっごくでっかくて、何百年も生きていて、偉大な力をもっていて
この世で最強の存在で、神として崇められていて。」

「まあ、そうですね」

「じゃあ、なんで自分で魔王を倒しにいかない?」

自分で行けばいいだろう
それだけの力があるのに、なぜそれをしないんだ。

その言葉で、プサンはラスの不満の正体がわかり、「ああ、なるほど」と頷いた。
この質問は、初めてではなく今まで幾度となくいわれてきた質問だ。
「何故、自分は動かないのか。」
「世界の終りを座して待つおつもりか。」
更に辛辣に言う者もいた。
「人の世など、どうでもいいのだろう。所詮人ではないのだから」と。
この無礼さに対しマスタードラゴンは罰することはなく、ただ静かに諭してきた。
幾度となく応えてきた答えを今一度繰り返し説明する。

「行きたくても、いけないのですよ」
「マスタードラゴン様の使命は、この世界を治めることです。」

「その世界が滅んだら治めるも何もないだろ」

手を広げて説明を始めたプサンに、早速横槍をいれる。
まじめに聞くつもりなんてない。
どうせ何を言おうがただの言い訳にしか聞こえないのだ。

「そうですね。その通りです。」
はじめから、斜に構えているラスの態度に、プサンはポリポリと頭をかいた。
「では、マスタードラゴン様とは何でしょう。」
「都合の良いお助けマンでしょうか?それとも最強の兵器?」

ラスは押し黙った。

「残念ながらマスタードラゴン様も万能ではないのです。」

「たとえ魔王を倒したとしてもマスタードラゴン様にもしものことがあったら、世の中の秩序が乱れ世界は混乱します。」
「そうなるとやはり、人々は困ってしまうのです」

「世界の秩序を守る一方で、自分の身を守らねばならない」
力を持っていても、軽率には動けない。なんとももどかしい立場にいる存在。

「ですから、出来る事なら人の手で解決してほしいのですよ。」


「…わかりますか?」
タテジワをつくって難しい顔をしている子供に、ちょっと判りにくかったかな?とプサンは苦笑した。

「…」
「わかったよ」
そう言うと、ふいっと視線がそらされた。

「…つまり、オレは死んでも一向に構わないってことだな」

プサンはその一言に衝撃を受けた。

「オレが死んでも誰も困らないもんな」
「ただの捨て駒か」

「ち、違います!」
そんな意味で言ったわけではない。慌ててフォローをしようとする。
しかし何も言葉が出てこなかった。

「オレって、魔王を倒すための兵器として生まれたんだな」

今まで、幾度となくされていた質問
今口にした説明は、本人の他力本願根性を遠回しにだが気づかせる効果もある。
大体の者が指摘されると、それに気がつき自分の言動を恥じる。

しかし、根本的に違うのだ。
プサンはやっと気がついた。
どんなに正当な理由を並べてみても、それは自己犠牲を免れるための自己正当化に過ぎなくて
この幼い子供に自己犠牲を強いている行為になんら変わりはないことに。

「ティルはさ」
と、ポツリと、双子の妹の名前をあげた。
「自分のこと俺のオマケだと思ってて、いっぱい傷ついてる。」
「ティルはオマケなんかじゃないのに。」

「オマケなのは俺の方なのに」

プサンは腰を落とし幼い勇者と目線を合わせた。
まだ幼い丸みの帯びた頬に触れると、ゆらゆらと不安定に揺らめく瞳がこちらを映した。
言い聞かせるように、プサンは頭をふった。
「ラス君もティルちゃんもオマケなんかじゃありません。
両方ともちゃんと両親に愛されて生まれてきたんですよ」

言い終わるか終わらないかで、プサンの手は振り払われた。

「だって魔王いなきゃ、俺は生まれる必要ないじゃないか!」

「ラス君…」
悲痛な想いで、自分を追い詰めていく子供をみた。
プサンは深く後悔した。この少年をひどく傷つけてしまったことに。
そして、理解した。
きっと自分が何を言ってもこの子の心には届かない。

「本当は、ティルだけなんだ。オレは付け足されただけで」

「…もう、やめましょう」
危険を感じたプサンは、この話を無理やり打ち切ろうとした。

ラスはとまらなかった。
「オレは、勇者じゃなきゃ存在する意味が無いんだ」

プサンは、ラスの眼前に手のひらをかざした。


 

 

 

 

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