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勇者のグラム数
(ピピン編)

-4-

 


秋の訪れを感じるある日グランバニア内にモンスターが侵入した。
それは数日前の地震災害で亀裂の入ってしまった城壁の補修作業中の出来事だった。
住民に避難勧告が出され、王族の方たちの避難を仰ぐ
オジロン様は避難をせず自らも武装をして兵達への支持をだしていた。
グランバニアは世界随一の武術の国だ。王族も武術を嗜んでいる。もちろん気取った貴族がやるお飾りでやるようなものではなく、実戦のためものだ。先代王など、この国一の剣士であったそうだ。その弟であるオジロン様もかなりの剣の腕は持っているのではとのウワサだった。
武装してもどこか締まっていないオジロン様の顔に「真偽の程は謎だが」と皆自信なさげに語る。
そんなオジロン様は何とか自分の娘を避難させようとしていた。が、ドリス様はまったく聞き耳を持たず、それどころか拳をポキポキと言わせてウキウキと魔物の出現を待つしまつだった。
年頃の女の子が…とオジロン様は頭が痛そうだった。
結局、避難させられたのはこの城の世継である王子と王女だけだった。
そしてこの二人、脅えながら大人しく魔物が退治されるのを待つような性格では無かった。


複数に分けられたチームにそれぞれ担当地区を割り当てられモンスター捜索がはじまった。
見回りをしながら自分は内心ビビっていた。
毎日鍛錬はしてはいるが、城外の見回りもまだ数回しか行ったことがなく、どう考えても実戦経験が足りなかった。

モンスターに出会いませんように!

そう祈りながら一歩一歩進む。
自分のチームは、 ピエール様が率いており、前方を行くその小さいながらも堂々とした背中が一番の頼りだった。彼はこう見えてもグランバニアで1、2を争うほどの剣の腕だ。魔法も扱える。
ピエール様についていれば最悪でも生き残れるはずだ。

突然、地鳴りのような音が聞こえた。

皆足を止めてあたりを見渡す。
音はだんだん大きくなっていく。
…こちらに向かってる?
これから起こるだろう戦闘に心臓がバクバク言い始める。手に持った槍を握りしめた。
ピエール様がバッと後方を振り返り、自分達も同じ方向を向く。
ドドドドッと地響きを立てながら、それは自分等の前に姿を現した。


地面蹴るたび城全体が揺れてるような錯覚を起こさせるその巨体は、猛スピ−ドでこちらに迫ってくる。
こちらとの距離が縮まってもその勢いを止めることなく、更に勢いを増して自分のすぐ側にいたピエール様につかみかかった。
そして力任せにピエール様の体をブンブンと、振り回す。
その、すさまじい迫力に自分を含め兵は思いっきりひるんだ。
「お、お、おちついてっっご婦人!!」
ガックンガックンと揺すられながらもピエール様が叫んだ。

そう、それはモンスターではなく、王子と王女の乳母役のキュンナさんだった。

その迫力たるや、そこらのモンスターよりよほどモンスターに見えた。
何か叫んでいるが、完全に恐慌状態に陥っていて何を言っているのか聞き取れない。
聞き取れなかったが、王子王女の傍に付いていたはずのキュンナさんのこの慌てぶりで大体の予想はついた。
おそらく、目を離したすきに二人がいなくなったのだろう。


下の緑色のスライムが主人を救おうと遠慮がちに彼女の足に体当たりをしていたが
100kgはあるだろう体はどっしりと構えられていてびくともしていなかった。
「ええい!うるさいネ!!」
一括されたスライムは、その迫力に押されるようにグニュッとつぶれてしまった。
恐る恐る元の形に戻り、泣きそうになりながらもご主人を返して欲しそうにウニュウニュとその身を揺らしていた。

ここでやっと自分達は止めに入った。
キュンナさんがなんとか気を取り直した時には、グランバニア有数の剣士であるピエール様はぐったりと延びてしまっていた。
「なさけないねぇ、鍛え方が足りないんじゃないのかい」
その場にいた兵の全てが「そんなむちゃくちゃな」と頭をかかえる中、ピエール様は怒ることもなく、「面目ない」と逆に謝ってしまうあたり、彼の人気の秘密なのかもしれない。


彼は、スライムナイトであるにもかかわらず、もてる。ものすごくもてる。
別に口が上手いというわけでも、ひょうきんというわけでもない。
ただ、今時めずらしいほどの一本木な性格が婦人たちの心をそそるらしい。
結婚まで申し込まれたとかで、一騒動あったそうな。
お相手は、グランバニアの使用人の中でも一、二を争うほどの美人。

なんとうらやま…
いえ、何でもないです。



双子捜索隊が再編成され、自分は戦力外と判断されたのか魔物討伐隊からそちらの方にまわされた。
ピエール様も一緒だ。
何故彼もがと言うと、理由は先導役にあった。
前には、プックルという可愛らしい名前の恐ろしいモンスターが鼻を利かせながら歩いている。
このキラーパンサーは、他の魔物達と違い機嫌を悪くすると普通に襲いかかってくる。
一応大事には至らない程度には手加減はしているみたいだが。
城の魔物は王不在の今、ピエール様が統率することになっている。
正規兵として地位は与えられてはいないが、人間からも信頼に足りると評価されているピエール様は人と魔物との仲介役としての役割を持つ。
人とのコミュニケーションがとれなければ、たとえ王の仲間とはいえ、この城で自分達の居場所はなくなる。
他の魔物達もそれを熟知し、逸早く人との信頼を築き上げたピエール様の言葉には従順だ。
だが、このプックルだけはまったく従う気はないらしい。
この双子捜索隊に協力を仰ぐ時も悠然と寝そべるその背中にピエール様が頭を低くして必死で頼んみこんでいた。
ピエール様の懇願に五月蝿そうにピクピクと耳を動かしていたプックルだが、双子がピンチだと言ったとたんスクッと立ち上がった。
このキラーパンサーにとっても王子王女の存在は特別ならしい。

二人の追跡は困難をきわめた。
中庭を横切り茂みの下をくぐり、階段の見張りを避けたのか、垂れ幕をつたって階下に降り、蔦を足がかりに壁を上ったりと、またややこしい経路を通ったものだ。
一体どこまであの二人は行ったのだろう。
自分ももういい加減ヘトヘトだ。
あのお二人のやんちゃっぷりは本当計り知れない。
グランバニア内で魔物が発見され退治されたと言う報告がチラホラと耳に入ってくる中、不安は募る。
早くみつけださなくては。
キラーパンサーの足はグランバニア深部へと降りる階段へと向いた。
暗い螺旋階段を足場を確かめながら恐る恐る下っていく。

目が暗闇に慣れてきたころ、下から悲鳴があがった。
皆弾かれたように、走り出した。


階段の先はグランバニアの宝物庫になっている。
いつもなら鍵が掛かって行き止まりになっているはずの扉が、木っ端微塵になっていた。
暗闇に浮かび上がる甲冑や壺、彫像。
お二人の名前を呼んでみるが、虚しく反響しただけだった。
不安を胸に悲鳴の主を求めて更に奥へと進む。

最重要国宝の納めてある部屋の前に辿り着き、ゾッとした。
厳重に閉められているはずの外開きの扉が内側へとひしゃげ倒れていのだ。
頑丈な鉄扉にくっきりと刻まれた爪痕を見ただけで、多くの者は尻尾を巻いて逃げ出すだろう。
周りの壁や床にも幾数もの爪痕があり、そのモンスターの獰猛さを物語っていた。
王子と王女がこの魔物に襲われたのか思うと、背筋が凍る。

ピエール様の後につづいて中に入ると、獣の生臭いにおいと血のにおいが鼻をついた。
「ラス様っ!ティル様っっ!!」
自分は堪らずに、不安声を上げた。


自分の声は、先ほどと同じく虚しく反響するだけだった。
もう一度叫ぼうとする自分を、ピエール様が制止した。
静かにと口元に指を立てるのをみて、自分も耳を澄ませる。

シクシクと暗闇の中どこからともなく、泣き声が聞こえてきた。
ピエール様が壁に掲げてある照明用たいまつを手に取り火をつけた。
照らしだされたその部屋は自分が思ったより狭くて、そのたいまつ一つで十分隅まで見渡す事ができた。

部屋の角っこに二人の姿を見つけた。
ティル様が血だらけで倒れていて、同じく血だらけのラス様がそれに縋り付きながら泣いていた。
「ティルが死んじゃう!!」
血と涙でグシャグシャの顔をあげてラス様が叫んだ。
「ティルが死んじゃうよぉ!!」
ピエール様がさっと、たいまつを自分に押し渡して二人に駆け寄り、回復の体制に入る。
しかしラス様は必死に傷口を押さえたまま、離れようとしない。
手を除けてくれないと治療ができないと言うピエール様の訴えにもブンブンと頭を振るばかりだ。
このまま手を離したら、死んでしまうと思っているようだ。
傷口に被せられている王子の青いマントはすでに赤く染まっていた。
これは一刻を争う事態だった。
何とか無理やりにでも引き離そうとしたが、自分達が近づくといよいよきつくしがみつく。
悪戦苦闘をする自分達の間にどけっと言わんばかりに割り込んできたキラーパンサーが王子の襟を咥えて強引に引き剥がした。
ちょっとやりすぎではないかと思うほど乱暴だった。
プックルに咥えられて宙に浮いている王子は悲鳴を上げながら手足をバタつかせてなんとか逃れようと暴れだした。
錯乱している王子に叩かれようが蹴られようが、キラーパンサーはしっかりと咥えたままジッと耐えていた。
あの短気で有名なプックルが唸り声一つ上げない。
ラス様がよほど可愛いのだろう

王子が押さえていた布をピエール様がそっとめくる。
「うっ」
布の下が覗いた瞬間、思わず呻き声を上げてしまった。
王女は肩口から腰のあたりまでばっさりと爪でえぐられていて、傷先に剥がれた皮がビロッと垂れていた。
パックリと割れた白い肌の間から血があふれ出る。
隣にたっていた同僚が目を逸らすのが見えた。
惨い光景だった。

まだこんな小さいのに…!
泣きそうになって震える手で口元を押さえる。
王子の顔が真っ青だった。

ピエール様が急いでベホマを唱えた。
柔らかい光が傷にそそがれる。
ベホマは治癒魔法の中でも強力だ。どんなに深い外傷でも完全に消し去ってくれる。
が王女の消耗が激しいからか、あまり芳しい効果が得られず、ピエール様が焦りの様子をみせはじめた。
「聖職者の方をっ!」
そう叫ばれてボンヤリとしていた同僚が慌てて聖職者を呼びに飛び出して行った。





 

 

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