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勇者のグラム数
(ピピン編)

-7-

 

ギィンッッ キィィンッッッ

修練場に響く、激しい打ち合いの音。
そのたびに自分の手にビリビリと刺激が走る。
打ち合いの相手は5歳の男の子だ
王子の得物は修練用の剣。もちろん刃は除かれている。
自分の得物は修練用の槍。
矛の先には刃ではなく変わりに柔らかい丸がついている。

王子の修練が始まってからすでに数ヶ月がたった。
あの泣き虫王子が本当に強くなるのかと、皆が心配していたが
戦闘の基礎が固まり始めた頃、王子はその頭角を現し始めた。
信じれない速さで成長していき今、自分と互角に手合わせをしている。
もう何回目の衝突だろう。一瞬でも気を抜けば一気に間合いを詰められて負ける。
何とかこの間合いを守りながら攻め込む。
剣と槍が、重なり合ってとまる。
しっかり大人の攻撃を受け止めているこの力は、毎日早朝から始まる体力づくりの成果だろう、
このまま押しきれば大人の自分に分があるが、それはせず槍の間合いの長さを生かして押し返しながらそのまま突き返した。剣ならそのまま押し切るか退くか弾くかとなるが、槍はこういう芸当ができる。
これに対し王子は反射的に身を引き避けた。
顔は驚いているのに体は軽快なステップで体制を建て直し攻撃へ転じている。無意識にでも動くように体に叩き込まれているのだ。
鈍くさすぎると心配されていた初めの頃が、嘘のようだ。
右へ左へ前へ後へとよく動く。

なんとか間合いを詰めようとしているのだろう。こちらの攻撃を浅く浅くかわしている。
執拗に攻め立てて、ステップがズレた瞬間をねらって右足を踏み込んだ。自分の最も得意とする決め技だ。高速で突きを繰り出す。これはいかに強く大きく踏み込むかが重要だ。ダンッと足に絶好調な衝撃が走った。いける!
こちらに気がついた王子は、右足を大きくこちらに向かって踏み出してきた。ものすごく驚いた。
この高速の突きに反応出来るとするなら身を退くか武器で弾くかのどちらかだ。
誰が迫ってくる攻撃に向かってわざわざ踏み込んでくると思うものか。

矛先が王子の体を掠めながら高速で過ぎていく。
はげしく動いていた時間がぴたっと止まる。自分の首先には剣先があった。
再びゆっくりと動き出した時間の中で、今の状況を静かに把握する。
自分達二人は鏡に映したように全く同じ構えをしていた。

……ちょびっと泣きたくなった。


今はなった突きはただの突きではない。
もう毎日毎日、突きと踏み込みの練習に明け暮れて
そうしてやっと隊長にも感心されるほどの速さで打てるようになった、ピピンご自慢の突きだ。
その得意の突きに向かって王子は踏み込みながら攻撃をかわし、同等の速さの突きを繰り出したのだ。


負けたのは確かにショックだが、でもこれが始めてではないし最近では勝率も落ちてきて、王子の成長のスピードを考えたらすぐに追い抜いていくだろうと思ってはいた。
だから覚悟は充分出来ていたのだが。

皆が王子のことを天才と言う所以は、人の得意とする技なり癖なりの動きをそっくりそのまま再現してみせるところだ。
本人曰くそういう完成された動きは毎回リズムが一定だから真似やすいのだという。
言われてみればなんだか簡単そうに聞こえるが、実際普通の人はそんなこと出来るわけがない。

相手は闘いの申し子だ。
もって生まれた才能が違うのだ。
これくらい出来なければ魔王には勝てないのだろう。
「さすが勇者」
そうおもわずにはいられない。

…というかやってられない。


自分の得意技で負かされたというのが一番ショックだ。
今日は馴染の友人でも誘って飲みに行こうと思う。



みるみるうちに、ラス様はグランバニアを代表する凄腕剣士へと成長していった。






この修行の間、同時進行で行われていた事がある。
不意打ち対策だ。
どんな凄腕の剣士でも、気を抜いた瞬間の攻撃が一番怖ろしい。
ただでさえ不穏な動きが多いこのご時勢
そして勇者という立場を考えたら、全ての敵が正々堂々勝負などということはないに決まってる。
当然のように暗殺をくわだてる者もいるだろう。
そうでなくとも不運の事故と言うこともあるのだ。

咄嗟の反応が出来るように普段から不意打ちに馴れさせようという試みだ。
つまり修練中以外の時間、休んでいるとき、廊下を歩いているとき、
馴れてくる頃には、食事中睡眠時にまでおよぶのだが、王子に対して不意打ちを行うというものだ。
いきなりマジ攻撃はまずいということで、全員にハリセン所持が命じられた。
最終的には普通に拳が飛び交うようになるのだが。


とは言っても相手は子供だ勇者だ王子様だ。
くつろいでいるときに、不意打ちをしかけるなんて恐れ多くて、とてもとても…
などと最初は言っていたが
こちらがおもいっきりくつろいでいる時に後頭部を スパン と叩かれて振り返った先に嬉しそうに舌を出した王子の姿を見たら「こんにゃろ」と、なるわけで。
こうしてグランバニア内で不意打ちゴッコが流行した。
王子とは限らず、同僚同志でもハリセンが飛び交う。

グランバニアを訪れた商人が帰り際「さすが剣の国、隙がありませんな」などともらすのを聞いた時は、その場にいた者全員吹き出した。


この不意打ちゴッコで一つ困った事があった。
ティル様だ。

廊下で出会ったりすると、瞳をキラキラと輝せながらこっちを見てくるのだ。
最初よくわからなかったが、例のにおい無きカオリを感じて苦笑した。
このカオリは王女の気持ちに間違いない。不意打ちしてほしくてほしくてたまらないみたいだ。
こんなに期待されたら、応えないわけにはいかない。
えーいなんていいながら、ハリセンでかるーくポスッとティル様の頭を叩いてみた。
すると王女の顔はたちまち怒りの表情にかわって「真面目にやってよ!」と叱られてしまった。
申し訳ないと頭を掻きながら、「でもそんな思い切り構えられたら不意打ちになりませんよ〜」と苦笑すると
「それもそうね」と腕を組んで頭を傾けていた。

次に廊下で会った時のティル様はごく普通の顔をしていた。
だが、ティル様が纏うカオリが前回と一緒なのだ。
ドキドキと期待に胸を膨らましているのがすごく伝わってくる。
何でもなさそうな表情をしているのが、またおかしくてたまらない。
本人は自分の気持ちが筒抜けになっていることを知らないようだ。

すれ違いざま「こんにちわ」と微笑みかけられた瞬間耐え切れなくなって、口を押さえながら走って逃げた。

「どうして私にはやってくれないの?」
ある日、腰に手を当てた王女が兵士の詰所に現れた。
殺伐とした空気が一瞬で潤うのがわかった。
ぱあっと瑞々しい感覚があたり一面を満たす。
だるいと机に伏せていたヤツも起き上がり、イライラとしていたヤツも毒気を抜かれたように目を向けていた。
ティル様からは「私、怒ってるの!怒ってるの!怒ってるのーーー!!!」という気持ちがあふれまくっていたがそれを受ける皆の顔はゆるゆるだ。
「そんなことしたらラス様に怒られてしまいますよ〜」
怒った姿もかわいいと、もう気分は初孫をもったじいさんだ。

「ラスがなによ!そんなの返り討ちにすればいいじゃない」

いやぁ〜今のラス様は本気で強いッすよ。
ここにいる全員敵いません。

「わかったわ!ラスに黙ってなさいって言えばいいのね!」
皆が押し黙ったのを見て問題が何かわかったと手を叩いたティル様は、早速言いに行こうと身を翻した。
「ちょ、ちょっと待ってください」
ラス様のもとへと走ろうとする王女を皆が慌てて引き止めた。
このまま行かせてしまったら次から本当に不意打ちをしないといけなくなってしまう。
皆が王女を取り囲んで勘弁してくださいと切に訴えていた。
「女性に手を上げるなんてできませんよ」
「そうそう。男ってのは女性を守るためにあるんですから。」
「女性に手を上げる男なんて最低なんです」
うんうんと、王女を囲んで頷く。

「では、何故私には遠慮がないのだ?」
ぬっと後ろから沸いた声に一同背筋を凍らせた。

ド、ドリス様…!
違うんです!!


皆必死の声をあげたが、
振り上げられたハリセンは容赦なく振り下ろされた。

スパパパァァンッ!!!


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